日本における「ホームインスペクション」

2018年4月より、「ホームインスペクション(建物状況調査・住宅診断)」の活用を促すことを目的とした改正宅建業法が成立しました。
これは当協会が推進してきた「耐震診断」の必要性にも通ずるところであり、今回の法改正が持つ意味とその影響力については、ビルオーナーにとっても注目に匹敵する事案と言えるでしょう。

◆日本の既存住宅インスペクションの歴史

日本において住宅診断が普及し始めたのは2000年代に入ってからですが、欧米では「ホームインスペクション」「ハウスインスペクション」と呼ばれもっと古くからこうした診断が不動産取引で活用されてきました。
例えばアメリカには数万人ものホームインスペクターがいて、不動産取引の約8割で診断をしていると言われています。イギリスやオーストラリアなどでも住宅購入時には当然のようにホームインスペクションを実施します。
アメリカでインスペクションが普及し始めたのは90年代半ば。マサチューセッツ州で2001年に法制化されて以降、今ではアメリカ全体の半数以上の州に広がっています。
日本は地震大国であることから、建物の利用者が構造面に注目することも多く、また日本人が求める品質レベルが全体的に高いこともあり、これまで中古住宅や中古マンションなどについて診断制度が普及しなかったことがむしろ遅れているという見方もあります。

◆アメリカの不動産取引とホームインスペクションの目的

参考までにアメリカで実施されている住宅診断について調べてみると、建物の売買取引の契約期間中に買い主が購入の意思決定をする際に、建物の状態について専門家にしっかりと調べてもらい、その物件のことを十分理解・把握・納得して購入することがその目的となっています。
アメリカではホームインスペクションの費用は通常、買い主が負担します。購入後に不具合を発見してトラブルになるのを避けるため、購入者自らが自分の身を守るという認識があるようです。
ホームインスペクターには客観性と第三者性が求められ、売り主にも買い主にも都合よく判断しない、独立した存在になっていて、仲介する不動産会社からも独立しています。
ちなみにアメリカでは、新築物件を購入する際にも買い主がホームインスペクションを実施することがあります。つまり、これから住もうとする家については購入者の方が厳しい目を持って選択・判断するというのが常識となっているようです。

◆海外先進国の中古住宅流通事情

アメリカではホームインスペクションの費用は通常、買い主が負担します。購入後に不具合を発見してトラブルになるのを避けるため、購入者自らが自分の身を守るという認識があるようです。
興味深いことに日本の中古住宅流通量は新築住宅の2分の1から3分の1ほどですが、アメリカの中古住宅流通量は新築住宅の約10倍。安心して中古住宅を購入できる体制が整っていることで、中古住宅の流通が促進され、消費者と業界の双方の利益になっているようです。

◆住宅への投資額と住宅資産価値

非常に興味深いデータが国土交通省から発表されています。

出典:国土交通省「中古住宅流通促進・活用に関する研究会 (参考資料)」より

メンテナンスを繰り返して長く家に住み続けるという文化背景を持つアメリカにおいては、住宅にかける投資額に伴って住宅資産額も向上しています。

つまり、メンテナンスした住宅、メンテナンスして長く住める住宅には、資産価値が上がっていくということです。

これに対し、日本では住宅に対して投資した金額と比較し、住宅の資産価値が下がり、中古物件は「資産価値なし」という見方がなされてきたことが数字に現れています。

これは、日本人にはメンテナンスを繰り返して住宅に長く住むというよりも、家が古くなったら新築に建て替えるという文化が普及していることによると言えるでしょう。

◆なぜ日本は新築住宅が人気なの?

日本では住宅供給量のうち中古住宅が占める割合が4割程度と言われていますが、先進各国の既存住宅流通シェアを見てみると、フランスでは6割以上、アメリカでは7割以上、イギリスでは8割以上と、中古住宅の方が取引が多いということがわかります。
同じ先進国でも日本でこれほど中古住宅シェアが低いことには様々な理由がありますが、国土交通省の『平成25年度住宅市場動向調査』において75%の方が「新築の方が気持ち良いから」というのが分譲住宅購入時に中古住宅にしなかった理由として回答しています。
一般的に、日本における住宅購入者は中古よりも新築の方に興味があり、「新しく住むのは新築」という文化が根付いているように感じられます。
その理由として、それらの先進諸国よりも日本の住宅の平均寿命が短いこと、戦後の特殊事情によってライフスタイルの移り変わりと住宅の仕様にギャップが生じやすいこと、日本における中古不動産市場の未成熟さなどがあげられるでしょう。

◆日本でホームインスペクションが普及しなかった理由

2013年には日本でも国土交通省によって「既存住宅インスペクション・ガイドライン」が策定され、中古住宅の流通を促進する対策が始まりました。

物件ごとに品質などの差異が激しい中古物件では、こうした制度を活用することによって安心して取引できるように業界全体が向上することが重要です。

検査技術や検査基準が事業者によって異なり、品質把握の観点でホームインスペクションの適正な実施とトラブル防止のためのガイドラインが策定されたとはいえ、現状では検査技術を持った人が不足しており、なかなかインスペクションの普及に至ってこなかったという現状があります。

◆法制度に導入された日本の住宅インスペクション

2018年4月の日本の法改正によれば、中古住宅の購入者ではなく、物件の売り主が費用を負担することになっています。仲介する事業者が買い主に対し、ホームインスペクションを実施していればその結果を報告し、未実施であればその旨を伝えて売り主に対して第三者のインスペクション事業者を紹介するという流れになります。売り主が物件に対して保証する側になるようです。
住宅購入時の関係各者の意識は、

アメリカ:好条件の中古住宅を買い主が自分の目で判断し探す
日本:物件を売れるようにするために売り主が積極的に第三者診断を活用する

という見方ができます。

購入後のトラブルを防止するという意識をスタートとしている日本に対し、中古住宅の流通が普及して業界が成熟したアメリカではより良い中古物件をユーザーが見つけてそれを長く使っていくという考え方が主流となっています。

 

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