居ながら工事で耐震補強。ホテル・旅館が生き残る鍵?

国内旅行者が増加する傾向にある昨今、旅館・ホテルの中には営業を続けられなくなってしまうケースが頻発している。

2013年11月の耐震改修促進法改正により、耐震診断の実施と結果の報告が義務付けられるようになり、基準値をクリアできなかったホテル・旅館などの宿泊施設には耐震補強工事を行なうことが努力義務とされているのだが、この耐震補強工事の実施に踏み込めない宿泊施設が非常に多いのだ。

旅行者としてさまざまな宿泊施設を利用する筆者としては「何にせよ耐震補強工事を行って頂かないと、安心して宿泊できない」と簡単に言いたいところではあるのだが、宿泊業の経営者の立場からすれば、この話はそう簡単ではない。

「何故、基準値をクリアしていないのに耐震補強工事を行っていないのか?」と問うのは簡単だ。もちろん工事に掛かる費用という面から難しいというのは容易に想像がつく。

しかし、「耐震補強工事を万全に進められる状況が作れない」ということは、単に工事費の問題だけではない、というのが真実なのだ。

 

旅館・ホテルの耐震補強は工費だけの問題では無い

時々、「一部工事中」になっているというホテル・旅館を目にすることがあるが、耐震補強工事の場合は建物全体の強度に影響する構造的な強さに関わる性質上、大規模な工事になりがちで、「一部工事中」というレベルでは済まされないことが多い。

すなわち、補強工事をするとなれば、営業を停止しなければならないかもしれないのだ。もちろんその分は減収となり、工期によってはシーズン中の休業も止むを得ない場合がある。リピーターの客離れといったリスクも想像できる。

先々の予約を受け付けて営業している旅館やホテルであれば、工事を行うための営業計画を練り直し工事前から数年後のことを見越して対応していかなければならない。

休業するにはそれだけのリスクと負担があるのだということは、旅館・ホテル業には素人の筆者でも容易に想像がつく。

 

旅館・ホテルの耐震補強を救うのは「居ながら」工事?

そこで、それらの問題を解決できる希望を持つ「居ながら施工」について、考えていきたい。

「居ながら施工」とは、つまり建物の「利用者がそこに居ながら施工できる」という事なのだが、例えば……

  • 施工はフロアー毎に行われる
  • 資材などが客の目に触れない
  • 最小限のスペースで工事できる

といった特徴がある。

こうした施工が可能なのかどうか、その宿泊施設がどんな耐震工法を選ぶのか、ということは、設計士や施工業者との話し合いを経て、それぞれの宿泊施設に合ったものを選択する、作り上げるということが必要だ。

「景観が損なわれる」「騒音が大きい」など、工法によってはさまざまなデメリットがあるため、耐震工法の種類に通じていない経営者にしてみれば改修に対してどうしても二の足を踏んでしまうことも少なく無い。

だからこそ、「居ながら」工事できるという技術の需要が高く、特に旅館・ホテルにとっては、従業員の働き口や宿泊客を途絶えさせることなく工事できるというのは大きなアドバンテージになる。

 

「居ながら」の工事は、旅行者にとってもウェルカム?

この点に関して旅行者の目線でも述べてみたいと思う。

これは純粋に筆者が観光地へ赴いた際に利用した宿泊施設で、例えば「居ながら施工」が行われていた場合どのように感じるのか、という話だ。

率直に言って、「それまでは対策されていなかったのか」という不安が生じることも否めないが、しかし、その場ですでに工事が行われているわけだから、結論から言うと「頑張ってください」と思うのみである。付け加えるならば「次来た時が楽しみです」とも感じる。

「居ながら施工」というのはそれほど悪い印象ではない。「耐震補強に関してしっかりと取り組んでいる姿勢が見える」ことが信頼感につながるからだ。

仮に工事中でも、受けたサービスで魅力を感じると、次回も同じ場所を利用したいと自然に思う。例えば「居ながら」耐震改修工事中だったデパートでも、それが原因で迷惑だとは思わなかった。むしろ、「確かに地震は恐い。でもこうやって対策しているから、ここは安心だ」ということに気付かせてくれて、他の施設について疑念を抱いたほどだ。

それゆえ、工事中でもそれを補って余りあるサービスの良さが提供されるとともに、耐震改修後のリニューアル感を出して次回の宿泊への誘致に力を入れていただきたいのだ。それさえあれば、旅行客としては意外と満足するものだ。少なくとも筆者はそう感じる。

施工を行っている間は一部のフロアが使えなかった建物だったとしても、次回来た時には全体がしっかりと補強され、美しくリニューアルされているというのはとても魅力的で、「この前、耐震補強されたからここはもう安心だ」という意識が根付き、リピートしたいようになるだろう。

 

「居ながら」にできる耐震改修工事。旅館やホテルの強みにしよう

営業を停止せずに耐震補強工事が行えるという「居ながら施工」について、旅館・ホテルの経営者は是非とも検討して欲しい。

結局のところ、地震に対する不安をバネにしてさらなる営業力の強化を図れるかどうかは、取り組み方しだいなのだ。ぜひとも発想の転換をしていただきたい。

宿泊利用時期に耐震補強工事を施していることを申し訳ないと思うのではなく、宿泊客の安全を第一にするからこそ耐震補強工事を実施しているのだということにもっと胸を張って欲しいというのが、

そうして安全を確保された旅館・ホテルであれば、積極的に利用したい。これが、一旅行者としての筆者の率直な意見である。

 

-寄稿

 

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